オーガスタ並みの超高速グリーンと、J・M・ポーレットの戦略的な設計で日本のゴルフに革命を起こす
先手必勝を掲げ「自立・研究・工夫」の3本柱を軸に、オーガスタ並みの超高速グリーンを実現して日本のゴルフのレベルアップに大きく貢献するカレドニアンGCと富里GC
人づくり革命で、不可能を可能にした数々の実績
早川会長が高速グリーン実現に関してまず取り組んだのが「人づくり革命」。従来の固定観念から脱却し、未知の世界に挑戦する気概と、未来志向を管理スタッフに浸透させた。
その根幹となるのが「経験的(漠然的)メンテナンスから科学的(合理的)メンテナンス」への移行であり、自身も含めてスタッフに対し「研究・工夫・実験(テスト)・分析・記録・最適化探求」の貫徹と、今後に残すためのアルバム化である。「何事も現状に満足しては新しいものは生まれません。今まで誰もやっていないことに挑戦する。それこそ人間の英知が求められます。ただし事を成就するには上からの指示に従うだけでは駄目です。自分自身で観察力を養い、問題点と解決方法を考察し実行する“自立”。自分を磨きやるべき仕事について深掘りする“研究”。より良い方法や手段がないか、自分の頭で考えてそれを得る“工夫”。一人一人のこうした自覚と蓄積が大きなパワーとなって不可能を可能にすると私は信じています」(早川会長)
こうして2014年から「14フィート」という未知(日本では)の世界への挑戦の幕が切って落とされたのだ。
このプロジェクトの実働部隊長となったのが、石井浩貴キーパーだが、当時の模様をこう語る。「早川会長からこの指令を受けたとき、正直不可能ではと思いました。14フィートなどは前例(日本では)がありませんし、その技術もありません。単に速くするだけなら、ローラーをかけて芝を押しつぶし、表面を硬くすれば出来ます。しかしそれでは芝を傷め、様々な弊害が出ます。“芝の育成”だけで経験のないスピードを出すのは、現状では至難の業と思えたからです」
科学的なデータを基にテストの連続でマスターズ並みの高速グリーンを実現
だがここで諦めなかったのが石井キーパーの凄いところだった。日本では不可能でもアメリカなどではそれが現実化されている。アメリカで出来て日本で出来ないはずはない。それからが苦闘の始まりである。
石井キーパーはまずコース課のナーセリー(芝生の育成・研究の場所)に14種類のベント芝を選んでそれぞれの芝生について比較研究を数年続けた。折から地球温暖化対策が必要になり、夏の極限テストを繰り返しながら酷暑に耐えうる芝の研究も始めた。その中で日本ではあまり注目されていないタイイ(Tyee)種の芝が酷暑に耐え、病気にも強く、ヘタらない芝でこの地に適していることを突き止めた。
研究・実験はそれにとどまらず、別にナーセリーを設けて選び出した8種類の第4世代の洋芝で種々の研究・実験に入り、現在に至っている。
またタイイは、芝根が強く、葉が細かくて、垂直に立ち、最小限の刈り高に耐えて理想的な転がりを可能にすることも新しい発見だった。
だが芝は選定できてもまだ難題が残っていた。カレドニアンも富里もグリーンの床構造はUSGA方式(全米ゴルフ協会のグリーン・セクションが研究・開発した粒子の異なる砂利と砂質による床構造)を採用しているが、これも年月を経ると床構造に不純物などが堆積し不透水層が出来やすくなる。その結果芝根が絡み合ったりして、芝の育成に支障が出る。
カレドニアンの超高速グリーンでプロ競技が盛り上がる
対処療法でなく健康な芝の育成で
そこで早川会長と相談し、エアレーションを毎月一回以上行う手間の掛かる管理手法を取り入れた。また毎週全ホールのグリーンの表面から20㎝ほどの砂床をサンプリングし、芝草の細根が健康に育っているか、枯れ死した根が絡まって密集した層の透水性などを調査して、不整箇所があれば改善を行った。部分的にそうした欠陥があれば、18ホールのグリーンで均等な転がりが出ないからだ。“転圧”や“対処療法”ではなく“健康な芝の育成”で恒久的にスムーズな転がりが出なければホンモノの高速グリーンとは言えないと日夜苦闘した。
研究・努力の末に朝夕の2.8ミリの刈り高を実現
またスピードは健康な芝で刈り高が短ければ、短いほど転がりが良くなる。カレドニアンも富星も日常的に刈り高2.8ミリまでの水準に達しているが(日本では3ミリが限度と言われている)、それを実現するために最新式の3連モアの刃を極限にまで薄くし、グリーン面のわだちをなくすためには乗用モアのタイヤをウレタンに変更するなどの工夫を施し、更に“2.7ミリ”の刈り高を実験している。
早川会長は四季のある日本の芝草管理に対して「先手必勝」をロが酸っぱくなるほどスタッフに言い聞かせている。そのための機材や工夫・実験などにかかる費用は惜しまない方針を貫いている。適正な芝や肥料の選定、キメ細かい散水設備の改良、薄目砂多数回散布、グルーミング(葉先を立てる)、グリーン床構造の見直しとやれることは全てやる。最新機械を備え、どんな事態にも対応できる研究、工夫によるデータの蓄積。
こうした実績でカレドニアン・富里両コースのメンテナンスは近代化された新しい領域に入っている。高速グリーン実現の陰には科学に裏付けされた最新の研究を軸に膨大な費用と時間、労力がかかっているのだ。それは全国の名門コースや、芝に関心を持つほとんどのゴルフ場のキーパーや支配人が視察に来ていることでも証明されている。
意見の対立が不可能を可能に
その石井キーパーは「何度も会長と意見の対立がありました。でも会長からテストを繰り返せと尻を叩かれてやってみると不可能が可能になることが多いのです。それもこれもゴルフに対する、深い愛情から来ているのでしょう。あの情熱には頭が下がり、教えられることが本当に多いです。“為せば成る”を今回ほど痛感したことはありません」と感無量の面持ちだ。
マスターズ並みの高速グリーンは早川会長やコース管理スタッフの血と汗と涙の結晶。カレドニアン、富里の“命”であり“魂”。こんなグリーンでプレー出来る会員やゴルファーはプレーヤー冥利に尽きるというものだろう。
カレドニアン・ゴルフクラブ正門
『月刊 ゴルフレビュー』平成30年6月20日号より