名コースは会員や従業員にも
誇りを持たせる

カレドニアンGCの矜持

ゴルフコースのグリーンは肖像画における“顔”の言葉を残したチャールズ・マクドナルド。もうひとつ付け加えるなら従業員の対応もコースの評価を決める重要な顔のひとつ。

晩年の中部銀次郎氏はモダンクラシックに心を奪われた

カレドニアンの近代的なモダンクラシックコースの素晴らしさを証明した人物に、日本アマ6回の最多優勝を誇り、不世出の天才ゴルファーと言われた中部銀次郎氏 (故人)がいる。晩年競技ゴルフを引退した中部氏はこのカレドニアンと富里両コースをこよなく愛した。

廣野GC、東京GC、下関GCの日本の名門クラブをホームコースとした中部氏は、初めてカレドニアン、富里両コースを訪れたとき、日本の古いコースにないスコットランド指向の両コースに触れ、驚嘆と同時に、そのストラテージ(戦略性)を堪能した。以下は中部氏が残した言葉である。

「ゴルフは感覚と脳と心でプレーするもの。別な言い方をすれば、視覚と思考力と精神力です。この3つが同時にうまく作用するといいプレーが出来る」。これまでは生まれ育った日本のコースで、数々の偉業を達成してきた。

ところがカレドニアンをプレーしたとき、すぐにオーガスタを連想したという。

「日本では経験したこともない強いアンジュレーションのグリーン、ドラマチックな池とバンカー、波頭が打ち寄せるフェアウェーなどを見ると、3つのバランスが崩れる。日本では3つのバランスを調和させれば大きな大会で勝てた。だが国際レベルのカレドニアンでは五感をフルに稼働させ、どれかが欠ければ思うようなプレーは出来ない。ベストルートを模索し、旗の位置次第で攻め方、打ち方を変える……。日本的庭園コースならそれほど緻密に考えなくても通用した。だがどのホールも戦略性が高いカレドニアンではグリーンから逆算してプレーする難しさ、面白さがある」。以来中部氏は「どちらがホームコースか分からない」と言われるほどカレドニアンに傾注した。

コースは人を育てるというが、功成り名遂げた中部氏も、カレドニアンGCとの出会いで、晩年になって新たな自分を発見し新鮮な思いに浸ったことだろう。

しかし「コースは人を育てる」はプレーヤーだけとは、限らない。実は従業員にも当てはまることがカレドニアンGCにも見て取れる。

名コースの評判は働くスタッフにも矜持を与えるもの

同コースの渋谷康治総支配人が語る。「カレドニアンはコースで持っていることは重々承知しています。でもそれに甘えていてはいけないと思っています。『あそこはコースは素晴らしいが従業員の質や運営がもうひとつ』などと思わせたらいけない。いや『さすがにコースの質がいいと、従業員の質もいい』と言っていただかなければいけないと気を引き締めています。そのためにも様々な課題を設け、その実践を心掛けています」

早川会長が推進する「人づくり革命」の一環がハウススタッフやキャディの教育でも行われている。ハウススタッフとキャディを2つに分けて月2回のミーティングを欠かさず続けている。

以前はペーパーによる伝達だったが、幹部と従業員が直接意見を言い合うことで意思の疎通を図る。不満や、要望を受け入れ、改善する。5年前からはLINEによる意見の交換も始めた。

大切なのは「いかにして自立心を育むか」、従業員一人ひとりが個性を伸ばし、その道の「プロフェッショナル」を目指せるか。具体的には、キャディには石井グリーンキーパーのレポートを見せて、メンテナンスの研究、工夫の苦労を説明する。カレドニアンの名前の由来(スコットランドを指す古語)やゴルフ場の標語である“タム・アルテ・クァム・マルテ”(ラテン語で力と同様に技も)の深い意味を教える。すべてはプレーヤーに聞かれたときのための知識と理解のためである。もちろんマスターズ並みの14フィートの意義と目的も分かりやすく説明する。「知識は人生を豊かにする」という早川会長の理念の共有を忍耐強く説得する。従業員のモチベーションが上がれば、それは自分自身に跳ね返ってくる。

「神は細部に宿る」気付きも生まれる。そして従業員の仕事に「愛情・工夫・真心」が生まれる。

その上「報連相」(報告・連絡・相談)の徹底を図る。「会員サービスの徹底化を目標にしているので、メンバーの言う事は他のメンバーの迷惑にならない限り出来るだけ聞く方針です。コースにいる間は快適に過ごしていただく。それがメンバーの満足度につながり、コースを誇りにすることにつながります。その雰囲気がキャディや従業員に伝わり、楽しく仕事に従事する原動力にもなります。CS(顧客満足度)とES(従業員満足度)の両輪がないと本当の運営とは言えないと思います。それを徹底させるのが私の役目と考えていますから」(渋谷総支配人)

渋谷総支配人

コースの質と共に、明るく開放的で品格がある名コースの条件

名コースと名門コースはニュアンスは近くても似て非なるところがある。名門は歴史はあっても決して名コースとは限らない。

その点カレドニアンはコースの質が高く、運営も開放的だ。古いしきたりには囚われない。夏は短パンに、ショートソックスもOK。会員もゲストもお洒落を心から楽しんでいる。アスリート志向の若いゴルファー(男女)が多く、ひたむきに難コースに挑戦しているのも清々しい。ただし基本的なマナーはプレーヤーに要求する。メンバーはゴルフ場の丹精込めたメンテナンスを知っているから、グリーンのピッチマークは丁寧に修復し、バンカーの足跡はきちんと均す。その姿はゲストにも伝播する。みんながコースを誇りにし、大切にする。それこそが名コースの名コースたる所以だ。

カレドニアンGCはJ・M・ポーレットが精魂込めて設計した戦略性豊かなコース。フェアウェーのうねり、深いバンカー、プレッシャーを与える池など挑戦意欲をかき立てる。とりわけ蓮の葉を何枚も重ねたような変化に富んだ、国際基準の高速グリーンはプレーをスリルとエキサイティングなものにする。箱庭的な日本のコースと違い、旗の位置によってグリーンから逆算するプレーが要求される。ショットに思案し、アプローチやパットに技術と神経を使う。ゴルフの幅が限りなく広がる楽しさがある。

標語にあるように力だけでなく、知略も、ゴルフを愛する精神も必要とするコース、プレーの面白さ、従業員のホスピタリティ。それが一体となってゴルファーを魅了する。「コースは人を育てる」という深い意味を味わわせてくれる。それこそがカレドニアンGCが名コースたる所以なのである。

ナーセリーで常に研究テストを繰り返す

コース内の実験用ナーセリーで常時14種類のベント芝を育成し特性を研究、テストを繰り返しているカレドニアンGC。その結果を本グリーンにフィードバックして最高のグリーンを作り上げる石井キーパー。朝夕2回刈り込み、刈高3ミリ以下の状態をキープして常時12フィート以上を目指している。

「刈り込みには2種類のモア(芝刈り機)を使っています。朝は、より短く刈れる手押しモア、午後は効率重視の乗用モアを使います。刈る方向も8パターン用意していて、毎回違う方向から刈ることで、芝目のない葉が立った状態を維持します。短く刈ると芝生は細くなり、芽数が増えてくる。この短さで芝を育てるのは困難だと言われてきましたが、実験と管理の結果、答えが見えてきたんです」(石井)

腕利きキーパー#5
石井浩貴さん

四半世紀以上の経歴を持つ。芝の研究だけではなく、扱う機械にもこだわりがあり、カレドニアン専用の特注モアをメーカーと協力して開発中

『月刊 ゴルフレビュー』平成30年年6月20日号より

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